フィッシャーマンのためのフィッシングカフェ


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カズさんからの手紙 24

カズさんからの手紙 24
(この物語はフィクションです。)

計画変更

ビールの酔いで麻痺してしまった僕の頭では急激な話の展開についていけなかった。
顔にはまだ、笑顔のなごりがはりついていたけれど、やはり目元に表われる不審の表情は隠せなかった様で、それを見てとったコバさんが、先程までの酔った口ぶりから一変し、恐い位の毅然とした顔で話し出した。
「嘘と言うのは…言い過ぎです。
最初にお話した様な会員制の釣り倶楽部の件は本気で考えていたことなのです。
でも計画が変ったのです。
素晴しい環境の中で尊敬に値する友人達と、驚嘆に値する鱒を釣る、そんな倶楽部を作る事が私の夢でした。
それに会員の制度とは、自分の湖を持つなどという、釣師としては最高の幸福を手に入れた男の、当然の義務と考えていました。」
「しかし、最初に波瀬からも話してあると思うのですが、この小さな湖ではどんなに無理をしても1,000人の倶楽部員で限界です。
それ以上の人間が入るとただの自然の中の管理釣場となってしまうでしょう。
結局1,000人の人間だけが秘かに楽しめる特権階級的釣り倶楽部にするしかないのです。
しかも会員の人選をするのはこの私と波瀬です。
何かいけない方向へ進んでしまいそうな気がしたのです。
1,000人の為だけの釣り倶楽部、それもいいかな、なんて思ったのですが。
やはりもっと大勢の人達にこの湖の美しさを見てもらいたいし、本当の鱒達のファイトを味わってもらいたいのです。
それでとてもいいアイディアが波瀬から出たのです。
そして、是非その件についてあなたの協力が必要なのですよ、窪田さん。」

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by kftkubo | 2013-04-26 06:58 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 23

カズさんからの手紙 23
(この物語はフィクションです。)

会員制の釣り倶楽部の話も実は嘘なのです

とりとめのない話が一段落したところでカズさんが、夕食を持って現れた。
割烹着をした小柄なカズさんが料理を持ってくると、失礼な話、まるで民宿のオバさんみたいでとてもおかしい。
湖の幸や山の幸のそれぞれの魅力を生かした夕食を食べながら、僕はずっと言いだせなかった決意を口に出してみた。
「こんな時になんなのですけど、僕は是非というか絶対と言うべきか、こちらの倶楽部に入会させてほしいのです。
それで、入会費と言うか会員証って言うのですか。
その代金はいつお支払いすればいいのでしょうか。
分割なんかはしてないですよね。」
たぶんその時僕は血走った眼でご飯粒を口から飛しながらわめいていたのだと思う。
もう僕はその時夢が手に入りかけていると思っていたから必死だった。
ビールの酔いも手伝ってまさにつかみかからんばかりの勢いだったらしい。

カズさんと古葉さんは顔を見合わせるとちょっぴり苦笑しつつ、軽くうなずきあった。
そしてカズさんが口にした言葉は、充分に僕を驚かせてくれた。
「お金なんていらないのですよ、窪田さん。
会員制の釣り倶楽部の話も実は嘘なのです。」
その時僕はどんな顔をしていたのだろうか。
思考力がいったん停止してしまったようであった。

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by kftkubo | 2013-04-22 19:16 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 22

カズさんからの手紙 22
(この物語はフィクションです。)

コバさんとカズさんの釣り

さらに話をしているうちに、古葉さんとカズさんの釣りに対する態度が全く違っているのに驚かされた。
まずカズさんは、まさに釣りそのものが人生の様な人なのである。
黒駒湖ではほとんど毎日竿を振っているにもかかわらず、主要な湖の解禁日には必ず顔を出している。
釣り方もフライフィッシングを筆頭にルアー、渓流のミャク釣り、鮎、海となんでも好きで、加えてどの釣りに対しても研究熱心であると言う。
まさに「釣りに人生を捧げた男」 (これはコバさんの言葉)である。

それに対してコバさんは、自称究極のフライフィッシャーマンなのだそうである。
何が究極かと言うと、美しい黒駒湖畔でビールを飲みつつうつらうつらと湖面を眺めているうちに頭の中で鱒達が跳ねだした。
そして必ずその中の一番大きな奴がコバさんのロッドを引き絞り、充分そいつと遊びそしてそっとリリースをしたところで我にかえる。
いつかあたりはどっぶりと暮れていて、コバさんは一度も竿を振らず帰って来るのだそうである。
そう言ってコバさんは気持ちよさそうに笑うと、次は少し真顔になって、僕は釣りそのものよりも、釣りのある人生が好きなのです。
と、ちょっと酔いのまわった頭には哲学的で難解な気がする言葉でしめた。

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by kftkubo | 2013-04-16 07:40 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 21

カズさんからの手紙 21
(この物語はフィクションです。)

黒駒湖での釣りの話

精一杯の僕の感激の言葉に、
「そのつもりです。」
と古葉さんは、真顔で答えた。
そして笑顔になった。
テーブルの上のつまみは、自家製の燻製や山菜の漬け物などで、しかもどれもがとてもおいしい。
特に黒駒湖の鱒達の冷燻は極上のスモークサーモンにも負けないだろう。
「ところで波瀬さんは一緒に飲まないのですか。」
先程から姿が見えないカズさんの行方を訊ねた。
「あいつは、酒は飲まないのですよ。
たぶん今頃キッチンでうまい夕食を作っていますよ。
あいつの趣味は釣りの次は料理ですからね。
もっともすでに趣味の域ははるかに越えていますけどね。
うまいですよ。
今、食べてらっしゃるつまみもみんなあいつが作った物です。」
夕食が出来るまでビールを数本空にしつつ、古葉さんといろいろな話をした。
もちろん話の中心は黒駒湖での釣りの話である。
そして黒駒湖に今の様に鱒が定着してからというもの釣りに対してはもちろん仕事や家族、そして人生そのものに対して余裕を持って接することが出来るようになった、なんていう話をしてくれた。

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by kftkubo | 2013-04-07 15:11 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 20

カズさんからの手紙 20

ここは天国ですか

その日黒駒湖はかなり寒かったらしい。
生れてはじめての50cmオーバーを釣りあげて僕は興奮していたらしく、夕暮の北風さえ心地よく感じていた。
しかし、ログハウスのあかりが見え出した頃から急に寒さが襲ってきた。
扉をあけた途端、体を包み込んだ暖かさは心底うれしかった。
鱒をカズさんに預け、手を洗ってリビングに戻ると、古葉さんが暖炉の例の一番暖かい椅子を勧めてくれた。
「どうでした。ここの鱒は。」
そう言いながら一人で飲んでいたビールを僕のコップに注いでくれた。
「す、すごいです。でも欲を言えばもう少し余裕を持って釣りたかったですね。
ファイトしている間、ずっと頭の中が炸裂していてほとんど憶えていないのです。」
そんな返事をしつつビールを口に運んだ。
鱒とのファイトで興奮した体を北風が冷やしてくれた。
そして冷え過ぎてしまった体を今度は暖炉がほぐしてくれた。
そして更に、先程のファイトが暖炉の火の前で、しつかりと甦って、また熱くなってきた僕の体に泌みる冷たいビールが、これはもう叫びたい位うまかった。
「ここは天国ですか。」

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by kftkubo | 2013-04-01 07:37 | カズさんからの手紙 | Comments(0)