フィッシャーマンのためのフィッシングカフェ


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カズさんからの手紙 28

カズさんからの手紙 28
(この物語はフィクションです。)

よみがえる辛い思い出

カズさんが続けて言った。
「だけど最近釣りが辛いなって思うことが時々あるのですよ。
それはつまりゴミや河川工事などによる環境問題のこととか。
釣れてくる魚に対しても。
いろいろなのですけどね。
とにかく釣れても釣れなくてもなにか空しさみたいなものが残るのです。」
「釣りに人生を捧げているから、彼は。
俺なんかほかが嫌になっちゃってここ以外では釣りをしなくなったよ。」
古葉さんが話題の割に陽気な声で言った。
僕は人生をまだ捧げていないけど、私的な時間のほとんどを捧げている。
「そうですね。
特に僕ら会社員は休みが土日に集中しているでしょう。
だからまず釣りに行くまでに交通渋滞という試練があって、そして次に釣り場に着いたらどんなポイントだろうと人のいないポイントに入るのがまたひと苦労ですね。
釣れそうだとかそんなこと関係ないのです。
とにかく混まないところに入るのです。
そしてたまに釣れる魚といえば、放流して間もない尻尾の丸いのばかり。
それと相変らずのゴミの山。
せめて自分が入ったポイントのまわりだけでも拾って行こうと思うのですけど、あまりの量にそんなことしても無駄なのだっていう無力感でいっぱいになってしまう。
結局ぐったりと疲れて帰ってくる。
そしてさらにズシッとくることが、渓流に行ってとってもいいポイントをみつけて大事に釣っていたところが、翌年には見る影もなく河川工事で変わっていたりすることなのです。
しかもそれが一度や二度じゃないのですからね。」
話しているうちにいろいろな辛い思い出がよみがえってくるようだ。

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by kftkubo | 2013-05-23 19:33 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 27

カズさんからの手紙 27
(この物語はフィクションです。)

釣りが辛いと感じたことはありませんか?

「ところで窪田さん、」
カズさんがトイレから転がるように飛び出してきて口を開いた。
「釣りが辛いと感じたことはありませんか?」
僕はちょっと返事に困ってしまった。
釣れないことがイコール辛いということになるのなら、僕の釣りはまさに苦行僧の荒行のようなものかもしれない。
釣れない日々の繰り返しなのだから。
しかし自分の釣りは結果がすべてではないのだ。
あくまでも釣りをするその過程を楽しむものなのだ、と思っている。
そんな僕の気持ちを見透かしたようにカズさんが言った。
「確かに釣りに行く前日ほど、釣りという行為の中で楽しい時間はありませんね。
とくに解禁日前夜のあの気分。
何度味わってもいいものです。
そして釣行後の仲間たちとの釣りの四方山話。
たとえ釣れなくても釣りの楽しさをしみじみ思うひとときですよね。」
「釣りに行ったときのすきっ腹にしみる酒の味。
ちょっとコゲのついた飯のうまいこと。
そして焚き火の火。
これらも、釣れない自分を大いに慰めてくれるねー。」
古葉さんがちょっと酔った声で口をはさんだ。

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by kftkubo | 2013-05-16 20:02 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 26

カズさんからの手紙 26
(この物語はフィクションです。)

その前にトイレに

「さて、先程古葉が言った私の立案なのですが、大勢の人間にこの湖を開放しつつ、しかも自然を今のままに保つ方法があったのです。
それはですね……すみません。
その前にトイレに。」
あわただしく席を立つカズさんを横目で見ながら古葉さんが一言ぽつりとつぶやいた。
「ああいう奴です。」
僕がプッと吹きだすと、古葉さんも笑いながら立ち上り窓際に行き、先程からビールからかえたストレートのバーボンウイスキーの入ったグラスで窓の外を指すと言った。
「素適な星空ですよ、窪田さん。」
確かに美しい星達だったけど、それより僕にはカズさんの素晴しいアイディアの続きが気にかかって仕方なかった。
どんな事なのだろう。
そしてこれから先も僕はこの黒駒湖に来られるのだろうか。
古葉さんが低い声で鼻唄を唄っている。
暖炉でバチッと木のはぜる音がしている。
柱時計は午後10時25分を指していた。

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by kftkubo | 2013-05-07 22:01 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 25

カズさんからの手紙 25
(この物語はフィクションです。)

カズさんの話

何だか話は僕の予期せぬ方向へと進んでしまっている。
暖炉の炎にすっかりあぶられビールの酔いがますますまわってきて、どんな話にも今なら納得できてしまいそうだった。
そんな僕にカズさんが冷たい水を渡してくれつつ、古葉さんのガンガン頭にひびく大河の流れの様な太い声とは逆に、小川のせせらぎの様な涼しい声で話しかけてくれた。
「私や古葉、それに数名の仲間達で、今までに何度か自分達の理想の釣場を作ろうと何ヶ所かの川や湖で放流や清浄作業など地道な行動をしてきました。
しかし、ことごとく失敗に終ってしまいました。
原因はいろいろありました。
たぶん窪田さんなら想像がつくと思います。
そんな時に私達に本当に守り育てるに値する湖が手に入ったのです。
何よりも私がうれしかったことは、水源地も古葉の土地になっていたということです。
それにこの黒駒湖にはたくさんの湧水もあるのです。
つまりどんな開発がまわりで行なわれようともこの蒼き黒駒湖は不滅なのです。
まあ古葉が欲に走らない限りですけどね。」
「うーん、つらいなあー。」
古葉さんがおどけた様に口をはさんだ。

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by kftkubo | 2013-05-02 06:45 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 24

カズさんからの手紙 24
(この物語はフィクションです。)

計画変更

ビールの酔いで麻痺してしまった僕の頭では急激な話の展開についていけなかった。
顔にはまだ、笑顔のなごりがはりついていたけれど、やはり目元に表われる不審の表情は隠せなかった様で、それを見てとったコバさんが、先程までの酔った口ぶりから一変し、恐い位の毅然とした顔で話し出した。
「嘘と言うのは…言い過ぎです。
最初にお話した様な会員制の釣り倶楽部の件は本気で考えていたことなのです。
でも計画が変ったのです。
素晴しい環境の中で尊敬に値する友人達と、驚嘆に値する鱒を釣る、そんな倶楽部を作る事が私の夢でした。
それに会員の制度とは、自分の湖を持つなどという、釣師としては最高の幸福を手に入れた男の、当然の義務と考えていました。」
「しかし、最初に波瀬からも話してあると思うのですが、この小さな湖ではどんなに無理をしても1,000人の倶楽部員で限界です。
それ以上の人間が入るとただの自然の中の管理釣場となってしまうでしょう。
結局1,000人の人間だけが秘かに楽しめる特権階級的釣り倶楽部にするしかないのです。
しかも会員の人選をするのはこの私と波瀬です。
何かいけない方向へ進んでしまいそうな気がしたのです。
1,000人の為だけの釣り倶楽部、それもいいかな、なんて思ったのですが。
やはりもっと大勢の人達にこの湖の美しさを見てもらいたいし、本当の鱒達のファイトを味わってもらいたいのです。
それでとてもいいアイディアが波瀬から出たのです。
そして、是非その件についてあなたの協力が必要なのですよ、窪田さん。」

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by kftkubo | 2013-04-26 06:58 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 23

カズさんからの手紙 23
(この物語はフィクションです。)

会員制の釣り倶楽部の話も実は嘘なのです

とりとめのない話が一段落したところでカズさんが、夕食を持って現れた。
割烹着をした小柄なカズさんが料理を持ってくると、失礼な話、まるで民宿のオバさんみたいでとてもおかしい。
湖の幸や山の幸のそれぞれの魅力を生かした夕食を食べながら、僕はずっと言いだせなかった決意を口に出してみた。
「こんな時になんなのですけど、僕は是非というか絶対と言うべきか、こちらの倶楽部に入会させてほしいのです。
それで、入会費と言うか会員証って言うのですか。
その代金はいつお支払いすればいいのでしょうか。
分割なんかはしてないですよね。」
たぶんその時僕は血走った眼でご飯粒を口から飛しながらわめいていたのだと思う。
もう僕はその時夢が手に入りかけていると思っていたから必死だった。
ビールの酔いも手伝ってまさにつかみかからんばかりの勢いだったらしい。

カズさんと古葉さんは顔を見合わせるとちょっぴり苦笑しつつ、軽くうなずきあった。
そしてカズさんが口にした言葉は、充分に僕を驚かせてくれた。
「お金なんていらないのですよ、窪田さん。
会員制の釣り倶楽部の話も実は嘘なのです。」
その時僕はどんな顔をしていたのだろうか。
思考力がいったん停止してしまったようであった。

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by kftkubo | 2013-04-22 19:16 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 22

カズさんからの手紙 22
(この物語はフィクションです。)

コバさんとカズさんの釣り

さらに話をしているうちに、古葉さんとカズさんの釣りに対する態度が全く違っているのに驚かされた。
まずカズさんは、まさに釣りそのものが人生の様な人なのである。
黒駒湖ではほとんど毎日竿を振っているにもかかわらず、主要な湖の解禁日には必ず顔を出している。
釣り方もフライフィッシングを筆頭にルアー、渓流のミャク釣り、鮎、海となんでも好きで、加えてどの釣りに対しても研究熱心であると言う。
まさに「釣りに人生を捧げた男」 (これはコバさんの言葉)である。

それに対してコバさんは、自称究極のフライフィッシャーマンなのだそうである。
何が究極かと言うと、美しい黒駒湖畔でビールを飲みつつうつらうつらと湖面を眺めているうちに頭の中で鱒達が跳ねだした。
そして必ずその中の一番大きな奴がコバさんのロッドを引き絞り、充分そいつと遊びそしてそっとリリースをしたところで我にかえる。
いつかあたりはどっぶりと暮れていて、コバさんは一度も竿を振らず帰って来るのだそうである。
そう言ってコバさんは気持ちよさそうに笑うと、次は少し真顔になって、僕は釣りそのものよりも、釣りのある人生が好きなのです。
と、ちょっと酔いのまわった頭には哲学的で難解な気がする言葉でしめた。

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by kftkubo | 2013-04-16 07:40 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 21

カズさんからの手紙 21
(この物語はフィクションです。)

黒駒湖での釣りの話

精一杯の僕の感激の言葉に、
「そのつもりです。」
と古葉さんは、真顔で答えた。
そして笑顔になった。
テーブルの上のつまみは、自家製の燻製や山菜の漬け物などで、しかもどれもがとてもおいしい。
特に黒駒湖の鱒達の冷燻は極上のスモークサーモンにも負けないだろう。
「ところで波瀬さんは一緒に飲まないのですか。」
先程から姿が見えないカズさんの行方を訊ねた。
「あいつは、酒は飲まないのですよ。
たぶん今頃キッチンでうまい夕食を作っていますよ。
あいつの趣味は釣りの次は料理ですからね。
もっともすでに趣味の域ははるかに越えていますけどね。
うまいですよ。
今、食べてらっしゃるつまみもみんなあいつが作った物です。」
夕食が出来るまでビールを数本空にしつつ、古葉さんといろいろな話をした。
もちろん話の中心は黒駒湖での釣りの話である。
そして黒駒湖に今の様に鱒が定着してからというもの釣りに対してはもちろん仕事や家族、そして人生そのものに対して余裕を持って接することが出来るようになった、なんていう話をしてくれた。

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by kftkubo | 2013-04-07 15:11 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 20

カズさんからの手紙 20

ここは天国ですか

その日黒駒湖はかなり寒かったらしい。
生れてはじめての50cmオーバーを釣りあげて僕は興奮していたらしく、夕暮の北風さえ心地よく感じていた。
しかし、ログハウスのあかりが見え出した頃から急に寒さが襲ってきた。
扉をあけた途端、体を包み込んだ暖かさは心底うれしかった。
鱒をカズさんに預け、手を洗ってリビングに戻ると、古葉さんが暖炉の例の一番暖かい椅子を勧めてくれた。
「どうでした。ここの鱒は。」
そう言いながら一人で飲んでいたビールを僕のコップに注いでくれた。
「す、すごいです。でも欲を言えばもう少し余裕を持って釣りたかったですね。
ファイトしている間、ずっと頭の中が炸裂していてほとんど憶えていないのです。」
そんな返事をしつつビールを口に運んだ。
鱒とのファイトで興奮した体を北風が冷やしてくれた。
そして冷え過ぎてしまった体を今度は暖炉がほぐしてくれた。
そして更に、先程のファイトが暖炉の火の前で、しつかりと甦って、また熱くなってきた僕の体に泌みる冷たいビールが、これはもう叫びたい位うまかった。
「ここは天国ですか。」

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by kftkubo | 2013-04-01 07:37 | カズさんからの手紙 | Comments(0)

カズさんからの手紙 19

カズさんからの手紙 19
(この物語はフィクションです。)

素晴しき一日の終わり

秋の陽はすでに暮れかかってきていた。
何度も言うようだけどここの景色は最高に美しい。
特に陽が沈みかかったこの瞬間は凄みさえ感じる美しさだ。
紅葉と夕陽で真紅に染った山並と、それを写して深く紅い黒駒湖。
カズさんが〝里の秋〟をへたくそな口笛で吹きつつタックルを片づけている。
その背中が何故か変に懐かしくてならなかった。
そうまるで少年時代の友人の様に。
薄暗くなった帰り道。
僕は手にさっきの鱒をぶらさげてとても満ちたりていた。
何だかずっと昔の子供の頃にもこんないい気持ちの帰り道があったような気がする。
汚れたズボンのポケットにはジャラジャラと小銭が入っていて、片手にはその日の獲物のクワガタやらセミやらがしっかりと握られていた。
カズさんとの尽きない釣りの話。
今夜は本当に泊めもらおう。
もっともっとここにいたい。
そしてもっとこの人達と話をしてみたい。
ログハウスでは暖かい部屋の中で古葉さんとあの狼犬が待っているのだろうな。
湖で大きなライズの音が聞えたのは気のせいだったろうか。
黒駒湖の素晴しき一日は終わろうとしていた。

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by kftkubo | 2013-03-27 08:10 | カズさんからの手紙 | Comments(0)